特定非営利活動法人 古仏修復工房

古仏修復工房は文化財の修復を通して日本の文化を守り、後世に伝える活動をしています。


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1.2007年 集落管理 胎蔵大日如来 南北朝時代 修理作業報告書




「胎蔵界 大日如来坐像」


修理完了写真



修理前写真



【事業概要】
1.名称:   木造 胎蔵界 大日如来坐像
2.員数:   1躯
3.所在地:  茨城県つくば市−  
4.所有者:  −

【形状】
宝冠を表す。白毫相。目は玉眼とし、耳朶は環状ではない。三道を表し、条帛を纏う。両手には臂釧、腕釧を表し、肘を曲げ膝前にて法界定印を結ぶ。右足を上に結跏趺坐する。銅製の宝冠、瓔珞を付ける。

【法量】
修理後 
本体像高:57.8cm
台座高  :63.0cm
 
【品質構造】
木造寄せ木造り。桧製。玉眼。漆箔像。銅製の宝冠、瓔珞を付け、頭体幹部とも内刳りを施す。 宝冠頂上から像底までを前後4材に材を寄せ、面部はさらに、別に割り剥ぐ。割首を施し、玉眼を嵌入する。腰部の三角材はそれぞれ左右に材を寄せる。両腕は別材。膝前は別材で、両足に当たる部分をそれぞれ、薄く剥ぎ寄せる。

【損傷状況】
・本体
@ほぼ、全ての部材の接着がゆるみ遊離している。
A宝冠全面材欠失。
B体幹部右側面材(※前から2つ目の材)亡失。
C右腕上腕全面部欠失。
D各部、釘、カスガイの腐食。
E全体の剥落。
F右、天冠帯亡失。
G左、臂釧の亡失。
H銅製宝冠、一部、折損。
I銅製宝冠、瓔珞の一部、亡失。

・光背…亡失

・台座
@ 全ての部材の接着がゆるみ、完全に遊離している。
A 全体の約1/3の部材が亡失する。
B 不可解な場所で、切断、接合されている箇所がある。
C 修理の際の釘などが腐食をおこしている。
D 全体の剥落。

【修理基本方針】
今回の修理は、現状維持をする上で、必要と思われる最低限の修理を基本とした。

・本体
当初部分の保存を最優先した上で、像の形の復元を目指した。仕上げに関しては、剥落止めを全面に施した上で、新補箇所を古色仕上げとし、全体の調和をはかった。また、今回、膝前から一部銘文が見つかった。これらは赤外線写真にて記録した。

・光背…現状維持(新補しない)

・台座
当初部分の保存を最優先した上で、最低限の形の復元を目指した。そのため、新補箇所に関しては、構造上、最低限と思われる箇所のみを新補し、細かな彫刻などは行わない。また、構造に関しては、非常に脆弱な造りであるため、内部に補強をいれ、構造の強化を目指した。仕上げに関しては、剥落止めを全面に施した上で、新補箇所を古色仕上げとし、全体の調和をはかった。

【修理仕様】
・本体
@各部を麦漆、エポキシ系樹脂にて再接合した。
A宝冠全面材は新しく作った。
B体幹部右側面材(※前から2つ目の材)は新しく作った。
C右腕上腕全面部は新しく作った。
D錆びた釘は抜き取り、ステンレス製・真鍮製の釘を使用した。
E全体にアクリル系の溶剤で剥落止めを施した。
F右、天冠帯は現状維持。(新補しない)
G左、臂釧は現状維持。(新補しない)
H銅製宝冠、折損箇所は、細い銅線で繋いだ。
I銅製宝冠、瓔珞の一部は現状維持。(新補しない)

・台座
@各部を麦漆、エポキシ系樹脂にて再接合した。
A必要な構造材のみを新補した。
B適当と思われる位置に修正した。
C錆びた釘は抜き取り、基本的にネジ止めとした。
D全体にアクリル系の溶剤で剥落止めを施した。

※尚、補足材は全て桧を使用した。

【参考】
@修理前写真/修理完成写真
A大日如来坐像 修理図解
B大日如来坐像 構造図解
C赤外線写真

【所感】
この大日如来像は、つくば市の調査資料では、南北朝時代とされている仏像である。それによれば、元々は、現在安置してあるお堂とは、別の寺院の本尊であったものが、いつの頃からか、現在のお堂の隅に安置されるようになったらしい。尚、以前の寺院についての資料は残っていない。
また、この胎蔵界大日如来の他に、もう一体、同時代と思われる智拳印を結ぶ、金剛界大日如来像が現存している。金剛界と胎蔵界の大日如来が2体ともに現存しているのは、貴重であると思える。
どちらも傷みはひどいが、特に、胎蔵界の大日如来の傷みがひどく、ほぼ、半壊に近い状態であった。構造から、もともと、胎内に何かしらの納入品が入っていた可能性が高いが、現在では何も残されてはいない。安置状態が悪いが、貴重な仏像であるといえる。

今回、NPO活動の一環として、寄付を募り、ほぼ、放置されているに近い仏像を、1年間かけ、無償にて修理するという事業を行った。
現在、このように、放置された様な状態になっている仏像が県内には数多く存在している。それらを全て、同じような形で修理していくことは無理な話ではあるが、一つの参考にはなったかと思う。
人を集める、寄付を募る…全てのことが初めての体験ではあったが、この経験を次回に生かしていきたい。また、今回、手伝ってくれた多くの方々、寄付してくれた方々に感謝したい。それらの方々の協力なくしては、台座まで修理することはとても不可能だった。
次世代に、一つでも多くの文化財を残していくためには、多くの人の協力が必要である。これからも、文化財の保存に関しての活動をしていきたいと考えている。




1.2007年 修理補助にかかる収支報告書

寄付総額   1314000円
使用金額   1105520円
残額      208480円 

使用金額内訳
@管理費…256478円
光熱費/通信費(工房維持費です。)

A事業費…849042円
大日如来の修理、及び、展示、広報などにかかった金額です。



 

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