特定非営利活動法人 古仏修復工房

古仏修復工房は文化財の修復を通して日本の文化を守り、後世に伝える活動をしています。


古仏修復工房トップページ


1.2009年 神社 神馬像 江戸時代 

寺院に比べて財政基盤の弱いことが多い神社の文化財などに関しても、多くの人の協力無しには保存が難しいのが現状です。また、馬の像のような動物彫刻は仏像彫刻に比べても評価されることがあまりないような実感もあり、今回、仏像以外の像が修理できるのは良かったかと思います。


2010年5月上旬に東洋美術学校で文化財の修理を勉強している学生さん達に手伝っていただいて、無事に寺院に搬入することができました。こちらとしても大変ありがたく、また学生さんにとっても学校で実際の文化財に直接ふれる機会はあまりないとのことで、お互いにとって良かったのではないかと思います。
今回の神馬像の修理については、ほぼ100年おきに修理されていた記録が残っていました。修理といいましても、色の塗り直し修理が主だった思われますが、木彫の修理としてはかなり頻繁な回数です。多分、像の構造そのものが、細かな材を使った組み木細工のような脆弱な造りでしたから、簡易的に修理してもすぐに痛んでしまったのだと思われます。
そういう意味では、今回の修理のテーマは「補強」ということにつきたかと思います。がらんどうの胴体部や首に骨にあたる構造材をあらたに入れ、胴体と足の接合にも大きなホゾを入れ込んで補強を施しています。
文化財ですから、誰かが馬に乗るということはないかと思いますが、修理前の構造では赤ん坊が乗っても壊れかねない脆弱さでしたが、修理後は3歳児ぐらいでしたら問題ない強度になったと思います。また、今までは100年おきの修理でしたが、今回は200年以上はもってほしいと思います。




神馬像修理作業報告書


修理完了写真



修理前写真


【事業概要】
1.名称  :木造 神馬像
2.員数  :1躯
3.管理者 :−
4 所在地 :茨城県−

【法量】(※修理完了後)
神馬像
像本体 像高 113.7cm 最大幅 34.3cm 最大長 167.5cm
ホゾ高(前右) 6.2cm ホゾ高(前左)6.4cm
ホゾ高(後右) 6.4cm ホゾ高(後左)6.0cm
台座 台座高12.9cm 最大幅 65.4cm 最大長 127.2cm
全体(柱を含む) 総高162.7cm 最大幅 65.4cm 最大長 167.5cm

【品質構造】
■神馬像
木造、寄木造、玉眼、彩色像。頭部は左右二材を中心に複数の材を寄せる。首は複数の材を輪状に接合する。胴体は複数の材を変形的に箱状に接合する。四肢は主要部を一材で彫り出し、腿と蹄は複数の材で形作る。尾も主要部は一材で、先端を別材とする。

【修理基本方針】
 文化財修理を基本とし、新たな彩色などは行わない。形の上で足らない箇所は復元する。また、構造上、脆弱な箇所があれば必要に応じて補強を施す。全体古色仕上げ。墨書類は記録する。

【損傷状況】
■神馬像
□本体
ア)部材の接合が一部はずれている。
イ)部材亡失。(蹄の一部など)
ウ)修理不適合箇所。(頭背面部、たてがみの一部、蹄の一部など)
エ)構造上の強度不足。
オ)鉄カスガイが腐食しており、木材を傷めている。
カ)彩色の剥落がひどい。

□台座
ア)漆の剥落がひどい。
イ)部材亡失。(台座裏の車輪)
ウ)金具のはずれ。
エ)台座に柱がしっかりと立たない。

【修理仕様】
■神馬像
□本体
ア)完全に解体した上で、再接合する。
イ)部材亡失箇所は新たに造る。(蹄の一部など)
ウ)修理不適合箇所は修正するか新たに作り直す。(頭背面部、たてがみの一部、蹄の一部など)
エ)主要体幹部が強度不足のため補強材を入れる。
オ)鉄カスガイ、鉄釘はすべて除去する。修理では銅釘か真鍮釘、部分的にステンレスビスを使用する。(※四肢の接合のみ鉄カスガイを使用した。)
カ)彩色は除去した。

□台座
ア)剥落止めを施した。
イ)台座裏の車輪は新たに造らず現状維持。
ウ)金具は部分的に銅釘で打ち直した。
エ)台座下に紛失部材を新たに造り、柱の安定をはかった。

【所感】
 非常に複雑な構造で造られた寄木造りの神馬像。必要以上に細分化された部材で造られている一方で一切の補強材が入れられていないため、非常に脆弱な造りであったと思われる。元禄に製作された後、文政、明治、※大正と短い間隔で修理されているのはそのせいであろう。今回の修理では主要体幹部と首に芯材を入れ補強した。
 台座裏に元禄17年(1704)に製作の後、文政7年(1824)、明治28年(1895)に修理されたことが記録されている。また、頭部より大正15年(1926)の文字が入った名刺が入れられていた。馬の玉眼がガラス製であり、また玉眼押さえの紙が大正から昭和初期のものと考えると、正式な記録はないものの大正に多少の修理を受けていたと思われる。
 



1.2009年 修理補助にかかる収支報告書


寄付総額   467000円
使用金額   554375円

2008年からの繰入金 474146円
残額      386771円 

使用金額内訳
@事業費…554375円
・修理補助費用(神馬像修復補助)271657円
・修理補助費用(菖蒲沢薬師如来修復補助)200000円
・文化財調査費用 49924円
・通信費・雑費 32794円




 

古仏修復工房